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2018年3月
2018-03-29 | BLOG

リバプールのおもてなし


プレミアリーグのリバプールFCのサポーターとして、毎週リアルタイムで試合を観戦している。

監督のユルゲン・クロップ氏は、ドイツのドルトムント時代に香川真司選手を見出したことで、日本でもよく知られている人物だ。

リバプールFCが展開するフットボールは攻撃重視。選手もタレント揃いで、得点感覚が高い。今季はマンチェスターシティが独走しているため、リーグ優勝はほぼ消えたが、ヨーロッパのクラブチームの一位を決めるチャンピオンズリーグでベスト8に駒を進めており、チームに勢いがある。

クラブの歴史も長い。今季はチーム創設125周年で、その間のリーグ優勝18回、チャンピオンズリーグ5回の優勝を誇るビッククラブだ。だが、リバプールFCに魅力を感じる理由は、強いから、歴史があるから、だけではない。現在進行形でクラブとして最先端のスポーツマネジメントを展開し、世界中のサポーターを飽きさせない吸引力がある。

今や、フットボールはホームスタジアムを地元サポーターで満員にして、グッズを買って帰ってもらうだけの時代ではない。リバプールFCは、クラブを積極的にメデイア化し、さまざまなコンテンツで全世界のサポーターを遠隔で楽しませると同時に、地元リバプールと密接に連携して、遠くアジアや南米のサポーターをもスタジアムに呼び込むことに取り組んでいる。

前者はまた別の機会に説明するとして、後者の代表例は私自身も利用しているホスピタリティプログラムだ(リバプールFCでの正式名称は「ホスピタリティパッケージ」だが、この文中では一般概念としての「ホスピタリティプログラム」を使用する)。これは特典付きの観戦プランで、リバプールFCでは、通常の観戦チケットに加えて、リバプール市内にあるホテルや、ホームスタジアム周辺あるいはホームスタジアム内のレストランでの食事サービスを付加したものになっている。

たとえば、ヒルトンホテルやクラウンプラザホテルのプランの場合、ホテルは市内の中心街にあるが、そこからホームスタジアムが離れた場所にあるため、送迎バスもセットだ。サポーターは試合当日の昼に、指定のホテルに出向き、ランダムに割り振られたグループテーブルに着いて、各国のサポーターと会話しながら食事をし、チームのレジェンドのトークを聞き、そのまま送迎バスに乗ってホームスタジアムに移動。みんなで観戦したあと、送迎バスで元のホテルに戻り、解散する。

値段だけを考えると、チケット単体で買ったほうがはるかに経済的だ。ホスピタリティプログラムは、チケット単体で買うよりも、数倍から10倍ほどの価格設定で、いかにも割高。それでもホスピタリティプログラムを利用するのは、海外のサポーターはインターネット回線の制限から、通常のチケット発売日に思ったように購入ができないからだ。そうした経緯から、当初は海外からの観戦者に対して非常に理不尽だと感じていた。しかし、何度か利用するうちに、これはクラブ側の海外サポーターへのおもてなし戦略であり、いい効果を生む側面もあると感心するようになった。

私が利用したプランでいうとメリットは3つほどあった。

一つは、地元の料理を食べる機会ができること。たとえば、リバプールには「スカウス」という郷土料理がある。ジャガイモの煮込みのような素朴なものだが、意外と街のレストランのメニューにはない。それが観戦前の食事のバイキングに並んでいたりする。そういうことから現地の食文化を楽しめる。

つぎに、同じく海外から来た観戦者と同じテーブルに着き、コミュニケーションをとる機会ができること。前回行ったときは、ブラジルから来たというご夫婦が隣にいたので、一人しきり会話を楽しんだ。医者である旦那さんが、リバプールファンである奥さんの誕生日ギフトとして、ホスピタリティプログラムを選んだという。そういうことを通じて、サポーター同士の理解が深まる。

もうひとつは、チームのレジェンドと呼ばれる元選手のトークを聞ける機会ができることだ。かつて名プレイヤーだった年輩の紳士が、ジョークを交えながら、当日の試合の見どころを、チームをめぐるゴシップなども交えつつ、語ってくれる。合いの手を挟むサポーターもいたりして、笑いが絶えない。クラブが今だけでなく、かつての多くの人に支えられていることを実感できる。

利便性とコストパフォーマンスだけをいえば、通常のチケットを海外のサポーターが買いやすくしてくれればいいと思うのだが、ホスピタリティプログラムには、サポーターがクラブとリバプールという街の理解を深められるための得難い体験がある。クラブとしては意図的に誘導している部分もあるだろうし、通常のチケットは、地元のサポーターが優先的にとれるようにしておくことも、大事な戦略だろう。

当然のことながら、ホスピタリティプログラムには、地元リバプールのホテルやレストランなどの地域活性化を促す側面もある。

まずは単純に、昼食会(バス送迎をしている場合はそれも)のサービスによって、ホテル側は収益を得られる。さらに、海外から来るサポーターは、なんとなく自分の見知ったホテルやレストランだけを利用しがちだが、ホスピタリティプログラムによって新しい場所を知ることができ、そこでのサービスがよければ、次から積極的に利用するようになるかもしれない。

私はこれまでに3回、このホスピタリティプログラムを利用しているが、サポーターとして自らが受けるメリットに加えて、クラブなどスポーツマネジメント側がビジネスを拡大させる戦略として、その可能性を強く感じている。

たとえば、リバプールFCでは、まだ宿泊とからめたホスピタリティプログラムは提供していない。しかし、観戦者はホテル探しにも意外と苦労しているので、クラブがそうしたパックプランを出してくれれば、さらなる展開があるのでないか。また、ホスピタリティプログラムの利用者に、市内のいろいろなお店で使えるクーポン券などを出してくれれば、現地でお金を使う先が増えそうだ。これらは、利用者だけでなく、ホテルやお店側にとってもメリットがある。

最初にも書いたとおり、クラブ側は、単に地元企業に経済メリットを提供するだけではない。海外のサポーターをホームスタジアムに呼び込み、試合を楽しんでもらいつつ、リバプールという街ごと好きになってもらうことで、より強固な「リバプール体験」を持ち帰ってもらうことができる。

私自身、何度も足を運んでいる背景には、ただ試合を生観戦できるだけでなく、リバプールという街そのものに愛着がわき、試合の前後の時間を有意義利に使えるようになったことが大きい。

こうしたホスピタリティプログラムをみるにつけ、来年、日本で開催されるラグビーのワールドカップや、再来年の東京オリンピックなどでも、魅力的なホスピタリティプログラムを提供できる余地があるし、そういう場所で何かの役に立てたら楽しそうだ。特定のイベント、特定の企業だけでなく、街ごと連携しておもてなしをできれば、海外からのお客さんはきっと満足してくれるし、そこに関わる人たちの仕事を生み出せるだろう。